<<日本・・・>>

 今、日本へ向かうDC−10に中にいる。
9ヶ月もの旅が今終わろうとしている。
不思議と静かすぎる程落ち着いていて、前回の旅ではかなりこみ上げてくるものがあったのだが今回はほとんどない。
30時間ものフライトに疲れてしまっているからだろうか?
もしくはもうこんな事には何も感じなくなってしまったのだろうか?
旅の途中ではめちゃくちゃ熱く普段の生活ではどこか冷めてしまっているところがあるけど、もう旅は終わってしまっているのだろうか?
この先、何も新鮮なことは無いというのが気持ちを冷ましてしまっているのだろうか?

 今回TG728(タイ航空728便)で帰国中だが、これが何とJALとの共同運行便でJALに乗っているような気分で、乗客のほとんどが日本人で、大阪に向かっている割りに乗客はみんな静かだ。

 前回の旅では旅の余韻に浸るはずだった機内の中で大阪のおばちゃんたちの話し声にム−ドを掻き消されたので今回はちょっと嬉しい。ただ、大阪のおばちゃんたちにム−ドを壊されることはなかったが、横に座ったおっちゃんには幻滅させられた。

 日本へ向けての最後のフライトの離陸後しばらくして隣に座っていたおっちゃん曰く「タイへはお一人で?」
「ええ」と答えた。
「昨日はバンコクに泊まったの?」
「いえ、空港です」
「ふ−ん、そう。で、どうだった?タイは?タイに一人で行くって事はやっぱりあれでしょう?十分楽しんだ?」
最初はこのおっちゃんが何を言いたかったのは解らなかったが、直ぐにハッとして何を言いたいのかが解った。
「おじさんはよく仕事で中国や東南アジアに行くんだけどタイが一番良いね!みんな若いし。お兄さんなんか若いしかなり楽しめたんじゃないの?」
とかなんとか言いながら、タイでの話をし始めたので、
「すみません、僕はバンコクにはトランジットで立ち寄っただけで、空港から出てません。南米から来たんです。」
その後、今までしてきた旅の話をし、相手が思っているような事をしてきたんじゃないと強く言い張った。

 それにしてもタイへ一人で行く男がみんな売春などの目的で行っていると思われているのは以外だった。いろいろと話をしているうちにそのおじさんには家族もいて、年頃の娘さんもいて、エンジニアとして諸外国へよく行っていて、行く度に現地で遊んでくると言うことが解った。日本の大人ってそんなものなのかと幻滅させられ、ああいう大人だけにはなりたくないな−と心の中で強く思った。結局そのおっちゃんはこちらがあんまり話に乗ってこないとみてか、ウイスキ−を飲んで寝静まり、ようやく今までの旅のことを振り返ることが出来た。

 今回の帰国ル−トはかなり良いル−トで、アフリカ大陸にも降り立ち、懐かしのクアラやバンコクにも立ち寄れたし、そして最後はいつかは乗ってみたかったJALの国際線で日本へ。やはりサ−ビスも良く、何よりもスチュワ−デスが日本語っていうのはありがたい。日本に着いたら、当分スペイン語を使えなくなるのが残念だ。まあ、多くのアミ−ゴに手紙でも出そう!!!

 <<帰国>>

 機内アナウンスで「当機はまもなく着陸態勢にはいりますので・・・」というお決まりのアナウンスが流れ始めた頃、まだ四国上空を飛んでいた。こんなに早く着陸態勢にはいるのかと感じたが、それからあっという間に無事3月12日定刻の16:10に関西空港に着陸した。

 飛行機から降り、機内に預けてある荷物が出てくるタ−ンテ−ブルで待っていると、ス−ツケ−スや大きな鞄と並んで愛車Fogata号と見慣れた大きな青い袋(輪行袋:自転車でのツ−リングなどの際に使う自転車などを入れておく大きな袋)が流れてきた。何となく周りの視線を感じたがぼろぼろになった自転車とかなりくたびれた輪行袋を引きずって税関審査を受ける列に並んだ。
 館内放送では「最近、バンコクからの便で麻薬の持ち込みが増えていますので、麻薬犬の荷物検査にご協力ください。」と呼びかけがあり、麻薬犬が2匹ほど麻薬捜査官に引きつられ近寄ってきた。輪行袋にはテントをはじめとし旅先での家財道具一式を入れていたが、麻薬犬のうちの1匹が輪行袋の周りに来たときにぐるぐると回り始めた。他の乗客の前では通り過ぎるだけだったので、捜査官はもちろんのこと、周りにいた人たちも「何だ?」と言 う具合にじっと見ていた。
 内心、「麻薬なんか持ってないから早くどっか行け!」と思いながら、もし、一声「ワン!」と吠えたらどうしようかと心配していたが、何度かぐるぐる回った後、その犬は何事もなかったように通り過ぎていき、一安心した。たぶん、他の乗客はタイからの帰国なのに、一人だけ南米からの帰国でかなり臭いが違ったんだと思うけど、それにしても一時はどうなるかと思った。
 やっと税関審査の順番が回ってきたかと思うと、やはり必要以上に質問をされたように思う。ただ、南米からの帰国だと言い、一応中身を少し見せると問題はないと認められ、無事帰国を果たした。

 その後、飛行機に乗る前に抜いていたタイヤに空気を入れ、輪行袋から荷物を取り出し自転車に取り付け、そして自転車を押しながら国際線の到着ロビ−に姿を見せると、迎えに来ていた家族や友人との再会する事が出来た。
 何から話せばいいのか解らなかったが、とりあえず、「ただいま!」と言った。


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