<<風の大地・パタゴニア>>
やはりパタゴニアは寒い。南米大陸の南緯40度以南のことを総称してパタゴニアというらしい。マゼラン一行がこの辺りを航海したときに現地の人達が大きな靴を履いていたところから「大きな足−パタゴン)」からその名前の由来が来ているらしい。
ここに来るまで数多くの情報を仕入れていて、風の大地と呼ばれるだけあって一年中北西もしくは西風が吹いているらしくまた特に今の時期は比較的に雨も多くかなり天候的に厳しい旅が強いられそうだった。アスファルトのときはまだ良かったがそんな道もすぐになくなり時々走ってくる車で一切の視界がなくなるほど砂ぼこりが舞い上がって何にも見えなくなってしまう。おまけに風がきつい為、道の右端を走っているつもりでも気が付いたら中央にまで寄っていたとか、一瞬グラっと倒されそうになったりと、もうみちゃくちゃな条件だった。何度車の中へと吸い込まれそうになったか分からないほど危険な場所だ。
たまに追い風のときなんかは砂利道でも余裕だったが、そんな好条件は殆どなく、とにかく強引な風の気まぐれに身を任すしかなく、そんな中この辺を旅した外国人サイクリストがみんな口を揃えて、「ル−ト40はキツイ」と言われている道をあえて選んだ。というのもここに来るまで数々の悪路と戦ったり、フラットなところは殆ど走ってきていないという自信とおごり、そして怖いもの見たさという衝動に駆られていたからだった。噂は思っていたよりも大したことはなく、比較的きれいなダ−トで確かに途中幾つかハ−ドなところもあったけど今までに比べたら大したことはなかった。それよりもやっぱり横風にはかなり泣かされた。
一度だけ一日中約100km程強烈な向かい風という日があり、もうこうなったら泣くに泣けなかった。戻ることもできずひたすら前に進み、忘れた頃にやってくる車の砂ぼこりに悩まされつづけた。
話が前後になるが途中で日本人サイクリストの町田さんという人に会った。町田さんは一ヶ月半という期間限定でパタゴニアだけを旅するとのことだった。出会ったときはちょうど逆方向に進んでいてすれ違いだったが翌日に彼に追いついてしまい再会した。どういうことかと説明すると彼は始めパタゴニア縦断の予定だったけど変更して途中で切り上げるつもりだったらしいが、南へと行く僕と出会い最初の予定どおりのル−トで行こう、と決心して後を追いかけたが2つあるキャンプ場の両方に僕の姿がなく、先へ進んで追いかけたいけどもう遅かったのでその日はそのキャンプ場に泊まり、今朝早く出発し追いつこうとしたらしかった。僕のほうはというと昨日はそのキャンプ場に泊まっても良かったけどキャンプ場代をけちって、町から数キロ行った所でテントを張って休んでいたのだった。そして今朝は久々にゆっくりとスタ−トしたので追いつくことになってしまったのだった。
普段はあんまり人と走るのは得意ではなかったがたまには良い刺激になって良かったが、ただこっちは大陸縦断というのでなにかと荷物が多く、それに反して町田さんは一月半ということもあり荷物もこちらの半分以下でいつも2人の間に大きな差が出来てしまい、だから毎朝今日はどの辺まで行こうかと話し合って出発する事にしていた。この辺りには道がほとんど一本しかなく南に行くとなったら必然的に一緒に行くことになってしまうのでこういう出会いは珍しいことではなかった。
<<カフェ・コン・ブランデ−(ブランデ−入りのコ−ヒ−)>>
冷たい雨の中、ひたすら何も無くあるのは目の前の道だけというところを走っていた。この日は朝からず−っと雨でもう身体中が冷え切っていたがあと数キロ走ったところにホットシャワ−の付きのキャンプ場があるという噂を聞いていたので頑張ってペダルを踏むことができていた。大きな坂に出くわしかなり頑張ったつもりだったが7分目くらいの所でダウンし、へこたれながら自転車を押していた。その横をあっさりと車が通り過ぎて行き、やっぱり車は楽やな−なんて恨めしく思ってると、その車はバックしてきてすぐ横で停まった。「オラ−! コモ・エスタス?(やあ、どうだ調子は?)」と元気良く尋ねてきた。この状況を見て元気かどうかも判らんのか!と多少腹を立てながらその車の中を覗くと見覚えのある顔が3つ笑っていた。昨日、走っているときに一緒に写真を撮らしてくれ!と言ってきた親子だった。「オラ−。」と言い、寒いし疲れてるし最悪だ!と言うと車から下りてきて何やら取り出し、まず温かいコ−ヒ−を入れてくれた。そしてパン。かなり腹も減っていたのでほんとにありがたかった。おまけに2杯目のコ−ヒ−にはブランデ−まで入れてくれて身体中が温まり、再び
ヤル気がでてきた。このすぐ先にキャンプ場がありもう少しの辛抱だ!と日本語に訳すとこんな感じの言葉を言って走り去って行った。
ほんとありがたかった。もちろんブランデ−入りのコ−ヒ−もそうだけどそれよりも雨が降っているのにわざわざ車から下りてきて、雨に濡れてまでこの見知らぬ旅人に尽くしてくれた家族のその思いやりにだった。ここに来るまでにかなり多くの人々に助けてもらっているが、こちらからそうい人達に何をしてきたんだろうと考えても何も浮かばない。ほんといつも与えてもらってるだけでこちらからお返しすることといったら精一杯「Grasias(ありがとう)!」と言うだけだった。
日本に帰ったら旅行者には出来る限りのことをしよう!ただそうすることで今までに恩を受けた人達にお返しが出来たとは到底思えず、たぶん一生恩返しなんてできないんだけど、少なくともこれから出会う旅人、もっと広い意味ではこれから出会っていく人々全員に些細なことでも良いから役立てる人間になろうと決心した。
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