<< 世界で一番の贅沢者 >>

 夕方、キャンプ地を見つけ、テントを張る。

タタミ2畳の広さもない狭さだが、唯一の城にろうそくの火が灯った瞬間、最高のなんとも言えない満足感に浸った。

この世の中にこれほどの贅沢者はそういない、と断言できる。

自転車やバイクの旅程、贅沢な旅はないと思う。

確かに、自転車での旅は疲れるし、途中で嫌になることも多い。

でも、時間と資金の許す限り、好きな道を行き、好きな所で寝る。

満点の星空の下、ろうそくの灯りを頼りに日記を書いたり、本を読む。たき火ができればもう最高だ。

一口飲むだけで、全身に響き渡るくらいの強い酒をちびちびとやり、星を眺め、火の粉が舞い上がるのを見て、今、自分がどれほど、贅沢ですばらしい夜を過ごしているのか、ということを自覚する。

そして、朝、コ−ヒ−を沸かし、飲む。

どんなコ−ヒ−よりもうまい! 本当に贅沢ものだ。

<< 正体不明のジョン >>

 クエンカを後にして、アンデス山脈を下った町でエクアドル人のジョンに出会った。彼の友人が経営している安いホテルを紹介され、夜には[Machara(マチャラ)]という港町までドライブに行こうと誘われ、後で迎えに来る、と言い残して去っていた。
 ジョンは妙に親切で、その後、シャワ−を浴び、腹ごしらえをし、休んでいると、約束通りジョンが迎えにきた。彼の友達も一緒で、3人でドライブに出かけたのだが、いつジョンが盗人に変身するかと彼の正体が分かるまでは不安でしょうがなかった。

 全く光の無い暗闇の中をものすごいスピ−ドで飛ばしながら彼が「明日、一日ここに滞在しろ。ホテル代と食事代は俺がもつから。」と、言い、どうしようかと悩んだが、今の状態で反抗したらどうなるか分からなかったので、もうどうにでもなれ!、という感じでOKした。
 なんでこんな暗い所に連れて行くんだ?と疑問に思いながら、ドライブなんかにくるんじゃなかったと、かなり後悔した。彼いわく「ここにあるのは全てバナナだ。」と、誇らしげに言っていた。確かにエクアドルがバナナの世界一の輸出国というのは受験で地理の勉強をしていたので、かすかに覚えてはいたが、そのときは気 が気でなかったので、そんなことはもうどうでも良かった。
 結局、彼はどこかの家に寄ったくらいで無事にホテルに返してくれた。

 翌朝、ジョンが迎えに来て、またドライブに出かけた。ここでやっと彼の正体が分かった。なんと彼はバナナ農園の地主だったのだ。年は30代前半だが父親から農園を譲り受け、切り盛りしているらしい。ここら一帯は全てがバナナ農園でどこまで行ってもバナナ農園が広がっていた。その風景は壮大で、バナナがどういう風に輸出されるのかを見学することができ、考えさせられることが多かった。
 まず、農園から切り取ってきたバナナを大きな水槽で洗い、ある一定の重さに仕分けし、消毒後どこの農園で作ったものかを示すラベルを貼り、箱詰めにして最後にトラックに乗せる。このときの仕分け作業がどうも気になり、ジョンに尋ねた。
「なんで、あんなにバナナをすてるんだ?」と、目の前には山積みされ、まだ青いきれいなバナナがあった。
「 ちょっとでも小さかったり、大きさが揃っていなかったら売れないんだ。」
「でも、別にどこも悪くないのに勿体ないな−」
「何を言ってるんだ?!! おまえは日本人だろ! おまえの国が特にうるさいんだ!」と、言われ、複雑な気持ちになった。
 
 確かに日本で見るバナナは形も揃っていて、きれいなものばかりだった。日本人を始めとする先進国の人々がバナナの形がきれいでないと買わない、と言っているとは思ってもいなかった。
そんなことを考えている間にもどんどんとバナナは選別され、形の小さなバナナはどんどんと放り捨てられていた。
形は違ってもバナナはバナナなのに・・・。


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